小話。
「ねぇ、母さま。あのね、んとね、」
幸は母親の膝に顔を埋めながら、常になく歯切れは悪い。いつもちゃきちゃきした娘のこんな風になるのはめずらしいと巴は目を細めた。
「なぁに?」
「女将さんにきいたんだけどね」
と、そっぽを向いたまんまだ。
「ええ」
巴も急くこともなく淡々と答える。
「女将さんね、初恋の相手とは結ばれないものだっていうの。母さまもそう思う?」
「いいえ」
母親のはっきりした答えに、思わず幸は顔を上げた。
「母さまは、そうは思いませんよ」
「そう?!母さまもそう思う?」
ぱっ、と幸の顔が輝いた。巴は黙ってただ頷く。
「そうでしょ!そんなことないよね!はじめて好きになった人とずーっとずーっと一緒にいられるよね!」
巴ちゃん。
袂から隠し持ってきた蓮華の花を恥ずかしそうに差し出してくれた。わたしはそれをそっと受け取って、俯いた。
ぼくね、巴ちゃんとずっといっしょにいられたらいいなって思うんだ。
巴ちゃんもそう思ってくれるかな?
あのとき、ただ黙って頷くことしかできなかったけれど、わたしも心のそこからそう思ってたわ。本当にそうなればとても幸せだろうと思っていた。ずっと、ずっと、ずーっと、あなたと一緒に年をとって過ごせていけたら嬉しいと。
「母さまの初恋の人って父さま?」
「いいえ」
母親の答えに幸は驚く。
咄嗟にいろいろと訊ねたい言葉が頭の中を駆け巡った。
でも。
でも、「いいえ」とはっきりといった母親の顔はとても綺麗で、とても悲しそうで、幸はなんにもいえなくなった。
幸は、ぱふんと巴に抱きつく。
ふわりといい匂いが幸を包み込んだ。
幸の小さな背中を巴の手がそっと撫でる。
「じゃあね、じゃあ」
と、幸は深呼吸してから一息にいった。
「母さまは父さまのこと好き?」
「ええ、とても」
母親の答えがすぐ耳元でして、幸はとても安心した。
でも、と思う。
母さまのはじめて好きになった人ってどんな人なんだろう。どうしてその人と結婚しなかったんだろう。その人は母さまのこと好きじゃなかったんだろうか。
それはないような気がする、と幸は子供心ながらに断固たる確信でもって思う。きっとなにかできなかった理由があったんだ。お互いに好き同士なのに、一緒にいられなかったんて、なんて悲しいことなんだろう。きっと、だから、母さまはさっきあんな悲しそうな顔をしたんだ。だったら、もうこのことは母さまには訊ねられない。また、母さまにあんな顔させちゃだめだもの。縁。縁に聞いてみよう。縁なら母さまのことで知らないことないもの。いささかムカムカするものを覚えながらも幸は考える。縁は、その母さまの初恋の人のこと嫌いだったんだろうか。だって、縁は父さまのこととても嫌ってるし。どうだったんだろう。今度家にきたら絶対絶対聞いてみよう。
「だぁれだ?」シリーズがなんか読んでくれてる人ここ数日多かったようなので取り急いで書いてみました。
幸は母親の膝に顔を埋めながら、常になく歯切れは悪い。いつもちゃきちゃきした娘のこんな風になるのはめずらしいと巴は目を細めた。
「なぁに?」
「女将さんにきいたんだけどね」
と、そっぽを向いたまんまだ。
「ええ」
巴も急くこともなく淡々と答える。
「女将さんね、初恋の相手とは結ばれないものだっていうの。母さまもそう思う?」
「いいえ」
母親のはっきりした答えに、思わず幸は顔を上げた。
「母さまは、そうは思いませんよ」
「そう?!母さまもそう思う?」
ぱっ、と幸の顔が輝いた。巴は黙ってただ頷く。
「そうでしょ!そんなことないよね!はじめて好きになった人とずーっとずーっと一緒にいられるよね!」
巴ちゃん。
袂から隠し持ってきた蓮華の花を恥ずかしそうに差し出してくれた。わたしはそれをそっと受け取って、俯いた。
ぼくね、巴ちゃんとずっといっしょにいられたらいいなって思うんだ。
巴ちゃんもそう思ってくれるかな?
あのとき、ただ黙って頷くことしかできなかったけれど、わたしも心のそこからそう思ってたわ。本当にそうなればとても幸せだろうと思っていた。ずっと、ずっと、ずーっと、あなたと一緒に年をとって過ごせていけたら嬉しいと。
「母さまの初恋の人って父さま?」
「いいえ」
母親の答えに幸は驚く。
咄嗟にいろいろと訊ねたい言葉が頭の中を駆け巡った。
でも。
でも、「いいえ」とはっきりといった母親の顔はとても綺麗で、とても悲しそうで、幸はなんにもいえなくなった。
幸は、ぱふんと巴に抱きつく。
ふわりといい匂いが幸を包み込んだ。
幸の小さな背中を巴の手がそっと撫でる。
「じゃあね、じゃあ」
と、幸は深呼吸してから一息にいった。
「母さまは父さまのこと好き?」
「ええ、とても」
母親の答えがすぐ耳元でして、幸はとても安心した。
でも、と思う。
母さまのはじめて好きになった人ってどんな人なんだろう。どうしてその人と結婚しなかったんだろう。その人は母さまのこと好きじゃなかったんだろうか。
それはないような気がする、と幸は子供心ながらに断固たる確信でもって思う。きっとなにかできなかった理由があったんだ。お互いに好き同士なのに、一緒にいられなかったんて、なんて悲しいことなんだろう。きっと、だから、母さまはさっきあんな悲しそうな顔をしたんだ。だったら、もうこのことは母さまには訊ねられない。また、母さまにあんな顔させちゃだめだもの。縁。縁に聞いてみよう。縁なら母さまのことで知らないことないもの。いささかムカムカするものを覚えながらも幸は考える。縁は、その母さまの初恋の人のこと嫌いだったんだろうか。だって、縁は父さまのこととても嫌ってるし。どうだったんだろう。今度家にきたら絶対絶対聞いてみよう。
「だぁれだ?」シリーズがなんか読んでくれてる人ここ数日多かったようなので取り急いで書いてみました。








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